ヘリウムは危険? 番組中にアイドルグループが意識不明に
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経済・科学
テレビのバラエティ番組の収録中に、アイドルグループのメンバーで12歳の女の子が倒れ、意識不明となりました。
ヘリウムガスを吸ったのが原因とされています。
はたしてヘリウムは危険なのでしょうか?
BS朝日「3B juniorの星くず商事」の収録中、意識不明に
28日、BS朝日の「3B juniorの星くず商事」を収録中、3B junior(スリービージュニア)のメンバーで、12歳の女の子Aさんが意識不明となり、救急搬送されました。
5人1組で吸引用のガスボンベ5本を一斉に吸い、1本だけのヘリウム入り(他の4本は空気)を吸ったら「当たり」というコーナーで、Aさんは吸い込んだ直後に倒れました。
脳の血管に気体(今回の場合はヘリウム)が詰まり血流を妨げる脳梗塞の一種である「脳空気塞栓症」だそうです。
意識不明が続いていましたが、2月3日から徐々に回復しているようです。
今さらですがヘリウムボイスとは
ご存知のように、ヘリウムを吸って話すと、ドナルドダッグのような声に変わります。
「ヘリウムボイス」と言われます。
ヘリウムは空気(エア)より音が速く伝わるため、音(声)の周波数が高くなってしまうからです。(エアの約331.3m/sに対し、100%ヘリウムでは約1000m/sの音速)
その面白さから、一時、パーティグッズなどでヘリウムボンベが流行りましたね。
しかし、100%のヘリウムガスを吸うと、文字通り酸欠になってしまい、実際に死亡事故も起きているようです。
そのため、ヘリウムボイス用のボンベでは、酸素が20%混合されています。
エアは、酸素が約20%、窒素が約80%ですから、 ヘリウムボイス用のボンベは、エアと同じ量の酸素が含まれていることになります。
※ヘリウムについては後半で詳述しています
3B junior(スリービージュニア)とは
3B juniorは「ももクロの妹分」とのことです。
芸能事務所スターダストプロモーションによるアイドル育成プロジェクトユニットで、公式サイトの写真を見ると、メンバーは21名のようです。子供ばっかりです
育成ユニットですから、メンバーの入れ替わりは激しいのではないでしょうか。
「3B juniorの星くず商事」は1月24日にスタートしたばかりの初の冠番組で、Aさんは、去年の秋に加入したばかりでした。
公式サイトでは、「今回の事故につきまして」というタイトルで、再発防止に努めるといったことが簡単に報告されています。
3B junior 公式サイト
3B junior オフィシャルブログ
ヘリウムについて詳しく
ヘリウム(元素記号He)は、水素に次いで軽い気体です。
非常に安定していて、化学反応を起こしにくい「不活性気体」なので、不燃性で毒性はありません。
気球などに使われるのはよく知られています。
分子が非常に小さく透過しやすいため、高い気密性を要求される高度な配管や機材のリークチェックにも使われます。
配管内部を吸引しながら外からヘリウムを吹きかけ、一定時間でどれだけの量が透過(リーク)するかをチェックします、
例えば、シール材にゴムを使った場合は、「1×10-6 atm・cc/sec」が最大値と言われており、これは大気圧で1秒間にHeがリークする量は1/1,000,000ccということを表します。
30日間2,592,000秒では、2.592ccですね。
金属のシール材では、 1×10-10 atm・cc/secと、1/10,000のリーク性能に上がります。
しかし逆に言うと、どんな高度なシール材であってもヘリウムは透過すると言えます。
これは、配管とシール材の隙間を通るのではなく、分子と分子の隙間を通り抜けるためです。
ヘリウムの分子はそれほど小さいということになります。
ですから、ヘリウムゴム風船がすぐにしぼんでしまうのは、吹き込み口から漏れているのではなく、ゴムの分子と分子の(ヘリウムからすると巨大な)隙間を透過して漏れているためです。
脳空気塞栓症の代表例は潜水病
「脳空気塞栓症」は潜水時にたまに起こります。
私はスキューバダイビングをやりますが、認定証の学科講習で必ず注意喚起される疾病です。
水中では水圧が掛かることは知られていますが、具体的には、10m毎に1気圧増加します。
つまり、水深10mでは大気圧の1気圧+水圧1気圧で、地上の倍の2気圧が掛かります。
レジャーダイビングで最大深度と規定されている水深30mでは4気圧ということになります。
高い気圧が掛かっているカラダが急に減圧されると、血管に溶けていた空気が発泡します。
炭酸入り飲料のフタを開けた時のイメージですね。
その気泡が、脳の血管に詰まると、今回のAさんのように意識が昏倒し、そのままでは脳細胞が死滅し続け、重い後遺症が残る危険があります。
脳以外でも、毛細血管が詰まって神経系の損傷や組織の壊死を招く場合もあります。
こういった障害を「減圧症」といい、一般的には「潜水病」と呼ばれます。
減圧症の原因と治療法
スキューバダイビングでは、減圧症防止のために、浮上速度や、浅い深度で一旦停止して減圧する(減圧停止)規定がありますが、パニックや機材故障等の急なエア切れなどで急速浮上すると減圧症になります。
また、潜水直後に飛行機に乗ったり(機内は約0.8気圧)、西伊豆でのレジャーダイビングの後に箱根の山(標高1000mとして0.9気圧)を越えて帰宅すると発症する事があるとも言われています。
潜水以外では、地下土木工事などで高圧を掛けて漏水や崩落防止を図る「圧気工法」で作業員に減圧症のリスクがありましたが、最近はこの工法は使われなくなっています。
昔、スキューバダイビングがワイルドだった時代は、減圧症になるともう一度潜って気泡を消す処置が取られていましたが、減圧症患者に潜水させるのは、言うまでもなく非常に危険な行為です。
唯一の正しい治療法は、高圧チャンバー(高気圧酸素治療室)に入り、血管の気泡を消す(血管中に溶かす)方法です。
写真のように大掛かりな装置(全長11m、高さ3m)ですので、設置している医療機関は限られます。
ヘリウムは危険か?
今回の事故を考えてみます。
これまで、ヘリウムボイス用のパーティーグッズで、事故が起きた報告例は無いようです。
前述のように酸素が20%入っていますので酸欠は起こしません。
考えられる可能性としては、これも前述のように、スタートしたばかりの冠番組で、Aさんは昨秋に加入したばかり。
このチャンスを活かそうと「気合いが入っていた」であろうことは想像がつきます。
思いっきり吸い込んだ後、しばらく息をこらえ、思いっきり声を出したのではないでしょうか。
そうだとすると、分子が小さくて透過しやすいヘリウムはその間に血管中に大量に溶け込み、一気に吐き出す事で減圧状態になり発泡したことが考えられます。
これまで報告例がないことから、今回はごく稀で不運な事故なのかもしれませんが、このような可能性がある以上、この商品には「大量に吸わない、息を止めない、一気に吐き出さない」といった注意喚起が必要だと思われます。
今さらバラエティ番組でヘリウムボイスをやるセンスはどうかと思いますが、番組制作者側の責任を問うのは無理ではないでしょうか。
責められるとしたら、注意喚起が不十分だったヘリウムボイスのメーカーでしょう。
ヘリウムは最も安全な不活性ガスのはずが
しかし、私もヘリウムが危険だと言う認識は全くありませんでした。
というのも、40m以上の大深度潜水では、窒素の替わりにヘリウムを混合することがあるからです。
エアの80%を占める窒素はヘリウム同様に「不活性ガス」ですが、高圧下では体調や体質により「窒素酔い」と言われる酒を飲んだような酩酊状態をもたらす場合があります。
ヘリウムはそのリスクが無く、また高圧下でも呼吸抵抗が小さいので、大深度潜水では、酸素・窒素・ヘリウムの3種混合や、酸素・ヘリウムの2種混合ガスが使われます。
また、体内からの排出速度が速いので、むしろ「減圧症リスクを軽減」する長所もあります。
つまり、今回のような「脳空気塞栓症」が起きにくい「最も安全な不活性ガス」で、欠点は値段が高いこととの認識でした。
それだけに、今回の事故は意外でした。
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